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- ニュージーランドの「ラーニング・ストーリー(学びの物語)」「テファリキ」について知りたい
- 子どもの「観察」の仕方や見守りかたについて知りたい
こんにちは、おったです。
世界のさまざまな幼児教育についての本を読んでいると、そのほとんどが「子どもをよく観察すること」を大切にしていることに気がつきます。
でも、「観察」ってなんでしょう?
家で子どもを見ることと「観察」は違うの?
子どもと一緒に遊んだり、お世話をする(危険がないか見守る)ことは、ほとんどの親が自宅で子どもを見ているときにやっていることだと思います。
それも一種の「観察」に基づく行為だとは思いますが、どうも幼児教育で言及されている「観察」とは別のもの。
ラーニング・ストーリーの考え方を知れば、子どもの学び(遊び)を「観察」する方法がわかります。
この記事では、ニュージーランドの幼児教育法「ラーニング・ストーリー(学びの物語)」とそのカリキュラムである「テファリキ」を紹介します。
世界的に人気があり、賞賛されるテファリキですが、デメリットももちろんあります。
この記事では中立の立場からメリット・デメリットや家庭での実践方法についてもご紹介しますね。
テファリキを通して子どもの学びを促す「観察」と「評価」の方法を解説しますので、子どもの遊びとの関わり方に悩んでいる方の参考になれば嬉しいです。
子どもとおもちゃを愛する年子( 2歳女の子、1歳男の子)の母。
ヨーロッパを研究対象にする人文系研究者として、日本語では手に入れにくい欧米言語のおもちゃ情報も日本語に訳してご紹介しています。
幼児教育について提供する内容は書籍や公的機関の見解に基づきます。
YouTubeではKAPLAの遊び方を発信中。
この記事で参考にした書籍はこちらです。
テファリキの基本的な考え方とメリット・デメリット
ニュージーランドは、北欧に並んで子育てしやすい国として知られています。
それは、教育省の管轄で実践されている「ラーニング・ストーリー(学びの物語)」という幼児教育法が評価されているため。
この「ラーニング・ストーリー」は親も含めた保育関係者の声を集めて作り上げられたカリキュラムで、2つの顔を持っています。
- 保育のなかで子どもの育ちをアセスメント(評価)する理論と方法(=保育の評価論)
- 乳児期に育てたい子どもの学びとは何かを明らかにした子どもの学び論
「ラーニング・ストーリー」のカリキュラムは、ニュージーランドの先住民マオリ族の言葉を使って「テ・ファリキ(Te Whāriki)」と呼ばれています。
テファリキのメリット・デメリットを先にまとめておきます。
メリット | デメリット |
---|---|
周囲の大人が子どもの成長をしっかり把握できる 非認知能力(自己を高める力・コミュニケーション力など)が育まれる | 読み書きや計算を重視しない ひとりひとりを注意深く観察する必要があり、時間と手間がかかる |
ここではまず、テファリキとは何か?ということから見ていきましょう。
テファリキが目指すもの
人はみな、生まれたときは旺盛な学習意欲を持っている。しかし3歳半頃から、チャレンジを恐れ、学ぶチャンスを退ける子どもが出てくる。
子どもたちが「チャレンジを恐れ、学ぶチャンスを退ける」無力感を示すのは、失敗を「悪いこと」だと捉えるからです。
乳幼児は環境に左右される生き物ですから、失敗や間違いを批判されたり、罰されたりする経験が子どもをこのような考え方に導きます。
一方、失敗や間違いをしても励ましや賞賛の声をかけられた子は、努力に価値をおくようになります。
その結果、障害に直面しても粘り強くチャレンジし続ける「達成志向」を示すようになるのです。
ラーニング・ストーリーは後者の働きかけをする教育法。
子どもの欠点に焦点を当てるのではなく、子ども自身の学ぶ力と可能性を「信頼」して子どもを見ることが大切にされます。
最終的に目指されるのは「生涯の学び手を育てること」。
知識やスキルの習得だけでは不十分で、学びの意欲や学びに向かう姿勢を身につけることが目指されます。
テファリキの原理と視点
「生涯の学び手を育てる」という目標を達成するために、「ラーニング・ストーリー」のカリキュラム「テファリキ」では4つの「原理」を挙げています。
- エンパワメント(Empowerment):子ども自身が底力をつける
- ホリスティック・デベロップメント(Holistic Development):子どもたちの全人的・包括的な発達
- ファミリー&コミュニティー(Family and Community):家族や地域コミュニティを巻き込んだ教育
- リレーションシップ(Relationships):人間関係、場所、出来事などとの関係のなかで子どもたちが育つ
これだけ見ても何のことやらわかりませんよね。
これだけでは具体的な指針に欠けるので、上記の原理に基づいて5つの「領域」が定められています。
①所属 ②幸福 ③探究 ④コミュニケーション ⑤貢献
「ラーニング・ストーリー」は日本で言うところの指導要領のようなもので、保育者による「観察」に関する理論です。
ですから、これら5つの領域から観察の指標となる5つの「視点」が生まれます。
領域 | 視点 | 手がかりとなる子どもの行動 |
---|---|---|
所属 | 関心をもつ | やりたそうにしている、何かに興味をもっている |
幸福 | 熱中する | 一定の間、子どもが何かに熱中している |
探求 | 困難や不確かなことに取り組む | 難しいと思いながら挑戦している(より難しい課題に自らチャレンジするようになる) |
コミュニケーション | 他者とコミュニケーションをとる | 言葉・ジェスチャー・音楽・造形・文字などを使って、自分の考えや気持ちを表現している |
貢献 | 責任*を担う | 公正さを守ろうと他の人などに応答している。自分を振り返る。他の人を助けている。保育に役立とうとしている。 |
*補足:ここで言うところの「責任」は役割遂行義務としての「責任」ではなく、周囲に応答することを意味している。
子どもが手がかりとして示すこれらの行動は順序だっています。
関心を持ち、それに熱中する。これらは子どもたちを課題に引き込む要素です。
そして熱中すると、子どもはより難しい課題に自らチャレンジするようになります。
これらの実践について誰かに話し、相談し、ときに助けを得る、などのコミュニケーションを通して、物事に対して責任を担うようになっていく。
この一連の流れこそが、その子にとってのひとつの「ラーニング・ストーリー(学びの物語)」なのです。
保育者は何をするのか?
子どもたちは保育者が用意した環境のなかで、それぞれの「ラーニング・ストーリー」を紡いでいきます。
ひとりが紡ぐ物語は必ずしもひとつではなく、重層的に発展していくことも。
子どもたちの成長につれて関心・能力・方略・構え・物語はより複雑になり、保育のさまざまな活動や領域で現れるようになっていくのです。
保育者の仕事は、それぞれの「ラーニング・ストーリー」を語りによってアセスメント(評価)すること。
評価するといっても、チェックリストやテストがあるわけではありませんよ。
多様で豊かな子どもの学びを、子どもの学ぶ姿を撮影した写真や絵、作品などと文章を結びつけて記録していくのです。
それらの学びの解釈について保育者・子ども・親で話し合うことで理解を深め、次の活動を決定する。
このようなアプローチは、モンテッソーリ教育と並んで世界的人気のある幼児教育法であるレッジョ・エミリア教育ととても似ているように思います。
テファリキのメリット・デメリット
テファリキにはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
メリット | デメリット |
---|---|
周囲の大人が子どもの成長をしっかり把握できる 親子の「いま」と「未来」のメンタルヘルスに良い影響を与える 非認知能力(自己を高める力・コミュニケーション力など)が育まれる | 読み書きや計算を重視せず、教育内容が偏る可能性がある ひとりひとりを注意深く観察する必要があり、時間と手間がかかる |
テファリキは子ども自身の学ぶ力と可能性を「信頼」して子どもを見る教育法なので、子どもの関心によって教育内容が偏る可能性があります。
そのため、読み書き計算や運動など、従来の教育で重視されていた認知能力の形成が不十分になる可能性があります。
でも、心配いりません!
テファリキはあくまで幼児教育のカリキュラム。
小学校以降はその発展形であるニュージーランド・カリキュラムに移っていきます。
テファリキによる教育を施す乳幼児には、読み書き計算を課さないからといって重大な問題など起こりません。
どちらかというと、日本で実践するには2番目の「時間と手間がかかる」の方が大きなデメリットであると言えるでしょう。
テファリキはひとりひとりを注意深く観察し、個々人にあった支援をしていく教育法です。
そのため、少人数保育が前提になってしまうのです。
保育士不足や待遇の悪さが問題になっている日本での実践はかなり厳しいと言えるでしょう。
しかし、もし実現できたら、子どもたちの成長を周囲の大人たちが一体となって見守ることができるようになります。
また、個々のラーニング・ストーリーはドキュメントとして保育者・子ども・親のあいだで共有されます。
これは園での様子がとても詳しく書かれた連絡帳のようなものです。
親は自分が子どもを見ていない間に子どもがどんなことを考え、実践・成長したのかについて把握することができます。
しかもそこに書かれるのはポジティブな内容のみ。
これは親子のメンタルヘルスにとってとても良い影響を与えるでしょうし、子どもが成長してから見返したときにも幸せな気持ちになれるでしょう。
せっかくなら、幸せな思い出の記録を残していてあげたいですよね。
子どもたちはポジティブな記録と声かけを受けて育つのですから、自己肯定感も高まることでしょう。
自ら課題を発見・解決していく活動のなかで、近年、世界的に注目される「非認知能力」をバランスよく鍛えることができるというメリットもあります。
例えば、先に挙げた自己肯定感。
他にも、困難に負けない力、忍耐力、回復力、適応能力、創造性、失敗を恐れずチャレンジし続ける力など。
これらは「自分を高める力」や「自分と向き合う力」にまとめられます。
また、コミュニケーション能力に代表されるような「他者とつながる力」も鍛えられることでしょう。
つまり、テファリキに基づいた教育を受けた子どもは、これからの時代に重視される非認知能力を満遍なく身につけることができるのです。
テファリキを家庭で実践するには?
当サイトは、親子のための情報提供を目指しています。
そのため、ここからは「ラーニング・ストーリー」のカリキュラムである「テファリキ」を家庭で実践するアイデアを4つご紹介します。
子どもの生活や遊びを写真や動画に撮る・共有する
テファリキの本質は、それぞれのラーニング・ストーリーを大人が見逃さないことにあります。
生活や遊びなど、子どもと一緒に過ごすなかで生まれるさまざまなストーリーを写真や動画として残してあげてください。
写真や動画と合わせて、そのとき子どもが考えていたことなどを文章にも記録できると望ましいですが、そこまで余裕のあるご家庭は少ないですよね。
ですから、写真・動画だけでいいのです。
わが家は「みてね」という写真共有アプリを使って、子どもたちの成長を祖父母とともに見守っています。
そしてそこに日常の些細な写真を毎日のように投稿しています。
投稿内容は、新しいおもちゃで遊んだ、既存のおもちゃから別の遊びを生み出した、絵を描いた(描いた絵も載せる)、散歩中に木の枝を拾った、などなんでも!
どんなに些細なことでも画像・映像として記録するように心がけています。
そうすると子どもの小さな成長を取りこぼさなくなるので、他人と比べることなく、わが子の成長を純粋に楽しめるようになることでしょう。
「みてね」はアルバムやDVDに加工することもできますし、コメント機能もついているので、おうちテファリキの実践にピッタリのアプリだと思います。
子どもの作品をファイリングする
こちらも写真と同じで、記録しておくことが目的です。
クリアファイルなどを用意して、作品を残していきましょう。
製作中に考えたことなどのメモ書きを一緒に保存できると理想的ですね。
実物をとっていてはキリがないということであれば、写真や動画に撮って処分しても構わないでしょう。
そのときは、できる限り製作者である子ども本人の許可をとってくださいね。
親が勝手に決めると、子どもの成長の機会を奪ってしまいますから。
さまざまな遊びの環境を用意する
子どもにとって危険なものをあらかじめ取り除くことは、いつも良いとは限りません。
もちろん、誤飲や大怪我につながるもの、その時の発達段階では危険を判断できないものは取り除いておかなければなりませんよ。
判断できる年齢であれば、多少の危険は子どもの成長の機会になります。
子どもが将来危険を察知し、避けられるようになるためには、多少の怪我や失敗の経験が必要なのです。
また、五感を刺激するために外遊びを積極的に取り入れると良いと言われています。
自然のなかには子どもたちを惹きつけるたくさんのアイデアが転がっていますし、自律神経も整います。
家のなかでも、特定の何かの活動に没頭できるような小さなコーナーをいくつも作ってあげるのが理想的です。
このようにたくさんの遊びの環境を用意するなら、それで遊ぶための自由時間も必要になりますよね。
だから、子どもの自由時間をなくしてしまうような習い事の詰め込みには十分注意してください。
世の中には「子どもの成長に良い」と言われる習い事がたくさんありますが、遊びだってそのひとつです。
お金をかけて時間とやることを拘束するのではなく、そのときに好きなこと・やりたいことを時間の制限なく伸び伸びと思い切りやるだけでも、子どもはさまざまな能力を育んでいけますよ。
子どもの好きなこと・好きなものについて話し、尊重する
コミュニケーションを取ることもテファリキの大切な要素のひとつです。
子どもが何に関心を持っているのか、どんなこと・ものが好きなのかについて普段からたくさん話し、ポジティブな声かけで尊重してあげてください。
褒めるときは、結果ではなく努力を褒めてあげてください。
そうすることで、子どもの「達成志向」が育まれ、新しいことに挑戦する意欲・学ぶ意欲が身につくことでしょう。
ニュージーランド「テファリキ」のメリット・デメリットまとめ
この記事では、『乳幼児の「かしこさ」とは何か』を参考に、NZで実践されている幼児教育「ラーニング・ストーリー」と、そのカリキュラムである「テファリキ」について解説しました。
この記事では後半のNZの事例のみ取り上げましたが、本書の前半は乳幼児にとっての「かしこさ」について、世間で言われるさまざまな誤解や考え方を紐解きながら解説されています。
薄い本ながら内容は充実しているので、乳幼児への教育にご関心があれば一読の価値ありです。
テファリキは素晴らしい教育法ですが、日本で実践するにはデメリットも気になりますね。
日本の場合ニュージーランドのような保育を行うことは難しいかもしれませんが、テファリキは家庭で取り組みやすい方法だと思います。
完璧にカリキュラムをこなさなくても、できることだけやっていけばいいのです。
大切なのは、子どもをしっかり「観察」すること。
子どもの自主性を大切にしながら、遊びを写真や動画・作品として記録に残していく方法なら手軽です。
ポジティブな声かけとあわせて、家族にとっての幸せな思い出をたくさん残していきませんか?
子どもが大きくなって見返したとき、きっと記録して良かったと思えるはずです。
このサイトでは他にもさまざまな幼児教育法についてご紹介していますので、よろしければご覧ください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
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